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2009年08月06日
ブックレビュー~「夕凪の街 桜の国」(こうの史代;双葉社)

76年の夏、浪人していた自分は、予備校の夏期講習で広島の街にひと月居ました。
荷物を三畳の貸間に拡げた時、椅子を持ってくるのを忘れたので、最初の夕方の散歩に出るついでに中古がないか、捜しに出ました。百m道路を越えて基町の本川の土手に自転車を乗り入れた時、嘗ての「原爆スラム」の最後の一軒が立ち退きに抵抗してまだ残ってバタ屋さんをやっていて、そこで小さい丸椅子を100円で売ってもらい、それと押入れの仕切りを机にして勉強した記憶があります。
翌年の春、どうにか合格できてまた椅子を買いにあの土手に自転車漕いでいきましたが、もうそこは立ち退きが完了して更地となり、公園にするための工事中でした。「じいちゃん、ありがとう。わし、100円の椅子で広大に勝てたけえ。立ち退きなんか跳ね返してがんばってください!」とお礼を云いに来たのに、茫然となって河岸に座り込んでしばし川面を見つめていました。
それから約三十年が経って、M脇書店で、ある漫画を手にしました。表紙に、見覚えのある原爆ドームと満開の桜の中を歩くヒロインの絵があって、たまらなく懐かしく、お金を払って全速力で自転車で帰って頁を繰りました。たった80頁の本の内容に引き込まれて読み進む内に、本川の原爆スラムの岸辺に座り込むヒロインの弟の50年前と現在の同じ河岸の俯瞰の時空を超えて対比した光景の頁に、グルグルと頭の中で廻っていくものを感じました。
あの河岸に77年春、自分も座り込んでいた、その頃の事が思い出され、懐かしさから涙がどっと出てきました。
今年もまた原爆忌がやってきて、あの夕凪の本川の河岸で座り込んでいた自分に戻るために、この漫画の頁を繰り、30年の時空を超える「グルグル」がやってきます。


Posted by 馬占山(Ma Zhanshan) at 03:24│Comments(2)
│ブックレヴュー
この記事へのコメント
馬占山 さま
そうなんですね。
本は読んでいないのですが
映画は見ました。
佐々部清監督の
そうなんですね。
本は読んでいないのですが
映画は見ました。
佐々部清監督の
Posted by 自由席
at 2009年08月06日 05:51

映画は残念ながら香川では映画祭で上映されただけで、映画館でのロードショーにかけられることも無く、トテモ残念でした。自分は07年7月16日に映画のロケ地でもある、基町のポップラ広場(写真一番上)で行われた完成試写会で見させていただきました。この時、佐々部監督も映画に協力してくれた広島の人たちにお礼もかねて挨拶をし、「この映画を劇場公開前に広島の皆様の前で上映できる事をとても誇りに思っています。」と述べていました。
Posted by 馬占山(Ma Zhanshan)
at 2009年08月06日 11:22

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